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街の不動産屋を上手に使う方法

2018年1月4日「木曜日」更新の日記

2018-01-04の日記のIMAGE
「紺屋の白袴」というが、どこの国でも商売人はお客優先だから、自分のことは後回しになってしまう。同じことを中国語では「売花姑娘挿花枝」と言う。「花売り娘は枝を挿す」、即ち 「紺屋の白袴」なのである。  商売をやっている人はすべてこういうやり方をすると思えばよい。建築家やインテリアーデザイナーは立派なデザインの家には住んでいないし、画商は第1級の名作を所蔵していない。株屋は超一流の株を持っていないし、不動産屋は超一流の不動産を持っていない。少なくとも、大家は一番立派なスペースを占領してはいない。  もう26、7年も前のことであるが、私が三井不助産の江戸英雄さんと雑誌の対談をするために、日本橋の隣にある三井不動産の本社を訪ねたことがあった。私は裏通りから案内され、地下の薄暗い廊下をとおって暗い部屋に通された。そこが江戸さんの社長室であった。またあるとき、住友不動産の瀬山会長に用事があって、「丸の内の本社へ」と運転手に指示したら、うちの運転手が私を住友銀行の東京支店に連れて行った。新しくできたばかりの立派な建物で、「私はここじゃないよ」と首をふったら、運転手が門衛のところにききに行った。出て来て「やはりおっしゃる通りでした」と言って、「ホテル東京」というもう今ではなくなってしまったホテルのある古いビルにやっと車を乗りつけた。  「大家業をやっている人が立派なところにいるわけがないじゃないか。うちだって自分のビルの中で、最も貸しにくい部屋に陣取っているのを見てもわかるでしょう」  と運転手に文句を言ったが、商売熱心な人なら誰でも一人の例外もなくお客優先に徹している。一流ホテルの社長室にしても、南向きの、一番眺めのよい位置にあるようでは、先が思いやられる。第1ホテルをつくった小林一三さんにしても最初は社長室を地階の最も条件の悪いところにもって行っている。少なくとも、創業期、会社がまだ貧乏だった時代には、このくらいの意気込みでやらなければ、成功は及びもつかないのである。もっとも最近は、国全体が金持ちになったせいもあるし、また金持ちが率先してお金を使わなければ、お金がうまくまわって行かないというせいもあって、三井不助産や住友不動産の社長室でも、新宿副都心のそれぞれの超高層ビルの中の立派なスペースを占めるようになったし、また秀和の小林茂さんの社長索にしても、赤坂の立派なビルの中の、申し分のないところにおかれている。ただし、こうしたことはいずれも大家業に成功して、日本でも卜ップの不助産賃貸業者になり、所有しているスペースも、ゆとりのあるものになってからのことである。  それに比べると、家を建てたり、マンションを建てたり、団地の開発をしているいわゆるデベロッパーは、賃貸で大をなした業者に比して、スケールのずっと小さな自社ピルに本社を構えているのが多く、もっと徹底した社長になると、そもそも他人の建てたカッコウのよいビルを賃借りして、文宇通り「紺屋の白袴」を地で行っている。これでは、せっかく、不動産の開発をしてしっかりお金を儲けても、自分の手がけた不動産を売ってあげた利益は税金の対象となってしまい、一方、自分たちの支払った家賃は他人の含み資産を増大させる役に立っているということになりかねない。  しかし、それでも開発会社はまだ不動産を幾分なりと所有し、多少なりとその恩恵を蒙っているからまだよい。ワンルーム・マンションを建てて、大衆投資家に分譲している新興勢力でも、オーナーたちにかわってビルの管理をし、その家賃の10%を管理費としていただくシステムを採用しているところでは、10室売れば、自分たちが一室分所有しているのと同じことになるから、数多く販売をすれば、それだけ固定収入がふえることになり、決してバカにはならない財産を持ったことになる。

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