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企業の財テクは土地に限る

2018年1月20日「土曜日」更新の日記

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 不動産投資と株式投資は、ほかに木業や木職を持った人にもできる。本業や本職はもう一つパッとしないが。資金的な余裕のある企業や個人が、副業として投資に手を出すことを今のハヤリ言葉でいえば財テクという。  本業や本職を忘れて財テクに走ることについては、いろいろと批判がある。「亡国的な行為である」と悪様に言う人がある。「いや、亡国的などと言うこと自体が頭の古い証拠だ」と反論する人もある。自分が選んだ本業を天職と考えて全力を尽くすにこしたことはないにきまっている。その天職が生産事業であれば、人のためになり、国のためになるというのが長い間の社会の常識であった。それというのも、社会全体が貧しい間は、物をつくればそれだけ社会の需要を充たすことになり、国を豊かにすると考えられたからである。  そういう時代には、職業にかなりの貴賤があった。俗に士農工商というように、支配階級としての士は例外的にトップに据えられたが、生産階級である農、ついで工がそれに続き、物を生産しないでその流通に従事する商人が最も卑しめられた地位におかれた。                                                                しかし、本当のことを言うと、商人が一番金持ちになるチャンスに恵まれており、西欧では商人たちが君主たちから自山を買い戻し自分たちで都市国家をつくったりしたが、東洋ではとてもそこまでは届かず、せいぜい君主に金を貸して苗字帯刀の特権をあたえられるとか、貿易船の免状をもらい外国貿易でお金儲けのチャンスを得るのがやっとであった。  近代工業が発展すると、それでも身分制が廃止され、四民平等となったが、失業したサムライ階級が主として従事したメーカー業と昔ながらの商人が従事した流通業の間には意識の上での優劣が残った。鉄鋼メーカーの社長がスーパーの社長に対して小商人呼ばわりをしたエピソードはまだ私たちの記憶に新しい。スーパーの社長でさえ小商人扱いされたくらいだから、証券会社や遊園地や劇場や食堂で働く人たちはとても正業として扱われなかった。ましてパチンコ屋やラブホテルともなると、さらに一段と見下だされ、バカにされたものである。 しかし、時代が変わり、社会の富のレベルが違ってくると、職業に対する人々の物の見方も変わってくるし、何よりも収入に大変動が超きる。社会の富の大半を農産物に依存していた時代には、領主とか地主が最大の高額所得者であったし、続いて工業資本の発達を見ると、工場の経営に成功した工業資木家が富豪の卜ップを占めるようになった。さらに工業がすすんで富が大衆にまで行きわたり、国民の所得水準が全体として引きあげられるようになると、娯楽が産業として成り立つようになり、歌手やタレントや野球選手、ゴルフ選手のような人々が人気を集め、収入も個人的には大社長と匹敵するようになり、長者番付で企業家や大地主と肩を並べるようになった。  収入がふえれば、人々の職業を見る目が変わってくる。見下だされていた俳優や歌手のような職業でも志望者がふえるし、たまたまスターとしての好運にありついた人たちのバカ金をかけた結婚式は、まるで貴族や皇族の御成婚ででもあるかのように、週刊誌やテレビで報道される。こうなると、王侯貴族がこの世から姿を消したあとだけに、収入と人気が職業の貴賤を測る新しい基準となり、生産に従事しているかどうかはもはや何の基準にもならなくなってしまったのである。  とりわけ生産手段が急速に進歩し、さして人手を要せずに、食料品でも、日用品でも、たやすくつくれるようになると、物をつくることの有難さは次第に失われるようになってきた。                                                「物をつくることをバカにしたら罰があたる」というが、物をつくることの重要性が相対的に後退すれば、その職業に従事して得られる報酬は少なくなるし、それに従事しようと志望する者もだんだん少なくなる。かりにあったとしても、求人そのものが減るから、業界全体の人口は減らざるを得ないのである。  つまり財テクに走る人が多いから、メーカー業が沈没して行くのではなくてメーカー業の斜陽化が著しく、そこで金儲けをするチャンスが減りつつあるから、その分だけ財テクに人々の関心が移り、財テクにお金を投じられる人がふえるのである。アメリカ人がまともに物をつくることをやめて、物を売ることや株の買占めに夢中になったから、アメリカの産業界がおかしくなりたのではなくて、アメリカの産業界がおかしくなって物をつくってもお金が儲からなくなったから、財テクに走る人がふえたのである。

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