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よい住まいを求め続ける

2018年3月14日「水曜日」更新の日記

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 フッガー屋敷の例にみたように、西ドイツでは昔の住宅や文化遺産を保存したり復元することも徹底して行なわれている。  日本でも有名になった「ロマンチック街道」もそのひとつ。 これは、中世の都市がそのまま残っているローテンブルクをはじめとして、ピュルップルクなどの歴史的文化遺産を訪ねる旅のコースである。 ハイデルベルクは古城と大学の街。 ケルンには157メートルのゴシック式ドームがある。 ライン下りは美しい自然と丘の上の古城を楽しめる。 住宅を含む古い歴史的文化遺産を残すことが、そのまま観光資源にもなっているわけだ。  こういう場所へ行ってみればわかるが、これみょがしなイベントなどは一切行なわれていない。 ただ古く美しい建物と環境が残っているだけだ。 しかし、そこをぶらぶらと歩いているだけで楽しくなってくる。 観光とは本来こうしたものであるべきで、その地域独自のユニークな建築や街、人々の生活ぶりを見ることが感動を生むのだ。 日本でも京都などはそんな雰囲気をもっている街かもしれない。 西ドイツでは歴史的街並みの保存・修復・復元に熱心に取り組んでいるが、それはもともと住民の居住環境を豊かにするために行なわれたことである。 子どもたちには情緒豊かなふるさとをいつまでも残してやれることになるし、老人にとっても環境が急変しないので非常に住みやすい。 その美しい歴史的街並みが今では世界から大勢の観光客を集める観光資源になっているが、それは結果である。 観光を頭においた街づくりはすぐあきるであろう。  街並みが歴史的文化遺産となるためには個々の住宅が最初からしっかり計画的につくられていなければならない。  どこの国でも街並みは住宅が中心だ。快適で美しく寿命の長い住宅と居住地をつくることが、後の世に歴史的街並みとなるのだ。そういう意味で、現在建っている日本の多くの住宅は未来にマイナスの歴史的街並みを構成していくことになり、子孫の生活の質を悪化させていくものであることを知らねばならない。  イギリスの人たちはよい住宅を手に入れることに熱心だが。 西ドイツも例外ではない。 住居に対する権利意識がとても強い。 住宅政策の改革を要求して若者たちがデモをしている。 空き家になっている古いアパートを占拠して住みついてしまう。 安い家賃の住宅を与えよと要求しているのだ。 日本ではまずこんなことは考えられない。 住むことは人権だという意識が多くのヨーロッパの人たちには定着している。  西ドイツでもイギリスでも、住宅事情ははるかに日本よりよいが、彼らは決して満足せず、常によりよい住まいを求めて運動している。  フランスでは、みすぼらしい公営住宅からの脱皮が図られている。 公営住宅というのは、日本でもそうだが、どうしても民間の高級マンンヨンなどよりは見劣りがする。 最近の公営住宅はそうでもないが、老朽化してくると、もともと建物の質が粗末で外観にあまり気をつかっていないから、みじめったらしくなってくる。 それが他の人々のあいだに”貧乏人の住む住宅″というような差別意識を生んだりする。 フランス人は、こういうことに猛然と反発した。 パリの郊外には、まるでお城かと思うようなデラックスな公営住宅が建設されている。 公営住宅のイメージを変えるためだったと担当者は話してくれた。このようにヨーロッパの国々では、住宅をよりよくしていくために、さまざまな試みを絶えることなく続けている。 種々の試みがすべて成功しているとはいえないだろうが、試行錯誤を繰り返しながら住まいを向上させていこうとする市民の意識とパイタリティーには感心せざるをえない。  欧米の住宅事情をいろいろとみてきた。 見習うべきことは数多い。 誤解してはいけないのは、イギリスや西ドイツの住宅をそのまま日本にもってくればよいというものではないことである。 これらの国にも矛盾がある。 また、国によって風土や生活文化が違う。 日本にも京都の町家の伝統にみるように、四季折々の季節に合わせた住み方や、坪庭に自然をとりこんで楽しむというふうな美しい文化がある。 もっと端的には畳・襖という住宅文化がある。 これはそれぞれの国がもっている固有の生活文化であり住み方であって、どちらがよいなどとはいえない。  それぞれの民族がもっている文化や風土を大切にしながら、住生活の質を向上させてゆく努力をすること、住宅が私たちに与える影響の大きさを認識し、本当に生活を豊かにする住居と人間のよりよい関係を模索してゆくことが重要になっている。  こういった住宅文化は大切にしなくてはならないが、一方で住居水準の高い低いという差は確実にある。 日本の住居のレベルは、政府がどんな詭弁を弄そうと欧米よりは低い。

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