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建て替えは福音とはかぎらない

2018年3月30日「金曜日」更新の日記

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 不安は家賃をきちんと払っている居住者にも襲いかかっている。 公団初期の1955~65年に建った団地の居住者は、住み続けられなくなってきたのである。  公団は今、古い団地の建て替えを計画している。用地取得難などもからんで、今後の建設計画の大部分は建て替え(団地の再開発)に重点が置かれようとしている。 1987年度予算案では、賃貸住宅の建設計画9500戸のうち2000戸は建て替えである。 その割合は次第にふえるものとみられている。  公団発足当初の団地は大部分が2DKで、6畳、4畳半とダイニングキッチン、わずか40平方メートル足らずである。 それでも当時の公営住宅にはなかった浴室やハイカラな椅子式のダイニンングキッチンがあり、1部屋の木賃アパートに住む多くの大都市住民には福音に思えた。  その後、経済成長とともに住宅の床而積は広くなり、公団住宅も賃貸では3DK、分譲では3LDKが常識になった。 しかし、政府の決めた「最低居住水準未満」世帯の割合は、居住密度だけからみた場合、公営や公団住宅居住者がいちばん多く、持ち家の6ハーセント、民間借家の27パーセント(部屋は小さいが居住者の数が少ないので公共住宅より低率になる)に比べて公共住宅は38パーセントである。公団住宅を広くすることが住宅政策の課題になることには、必然性があるわけだ。  だが、公団住宅の居住者には第一線を退いた人たち、高齢者もたくさんいる。建て替えの対象になっている古い団地ほどその割合が多い。昭和30年代に建設された団地では居住者の20~30パーセントが60歳以上の人たちである。  住宅が建て替えられると家は広くなるが、同時に、家賃も非常に高くなる。 たとえばすでに建て替えの進んでいる神奈川県下の小杉御殿団地では、元の家賃の2万4000円(35平方メートル)が10万3000円(4九平方メートル)になった。 公団は、一挙に家賃の負担がふえないよう、経過措置として3年間で徐々に新しい家賃にするよう配慮している。 だが結局は住みきれなくなる。  むろん中には少々家賃が上がっても広いほうがよいと喜んでいる人もいるだろう。 だが、住み慣れた住宅で余生を過ごしたい、2DKで十分、と考えている老夫婦にとっては、居住権をおびやかされることになる。  広くなるとはいえ、建て替えによって家賃が4~5倍にもなるのは、家賃に占める地代(土地の利子)の基礎となる地価が、買った当時の値段でなく、現在の地価で再評価され、地代として家賃に算入されることも大きな要因である。そんな馬鹿なと思う人がいるかもしれないが、公団住宅は住宅政策というよりも「民間活力」がらみの一環として民間借家と同じような考え方になってきているからだ。 だからこれからも、地価が上がれぱ地代も、したがって家賃も上がるということになる。  家賃が払えなければ出ていくほかない。 はつらいことだ。 だいいち、移る家が見つかるかどうか。 仮に公団が斡旋してくれても、新しい場所ではじめから生活圏を築き直すことができるかどうか。  年をとってからの引っ越しは生活基盤を壊すだけでなく、引っ越しウツ病、ボケ、死亡、その他さまざまな問題を引き起こすのである。

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