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やさしい伝統的塗料が急浮上

2018年5月14日「月曜日」更新の日記

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 住まいの木の部分には、何らかの塗装がほどこされています。木を保護したり美観を保つため、さらに外側の木に関しては雨風にさらされて腐るのを防ぐという目的のために、塗装は現代建築に欠かせないものになりました。  しかし、私たちの健康に害を及ぼす塗料の毒性が声高に叫ばれている今、塗装がほんとうに住まいに必須のものか、改めて考えてみる必要があるように思います。  かつての和風住宅にはマツやスギ、ヒノキなどの針葉樹が使われました。これらの木材は木肌がなめらかで美しく、素木のままで十分通用したうえ、磨けば磨くほど深みのあるツヤを醸し出しました。  ところが洋風の住宅が増えるにつれて、塗装で化粧した合板などの新建材が広く使われるようになってきたのです。  塗料は樹脂類、溶剤、顔料に大別されます。  原料の約75%は石油化学製品ですが、なかでも、溶剤類は短い時間に揮発して、空気を高い濃度で汚染するので危険です。  木質を活かす塗装にはラッカーやニスが多用されますが、これらには危険性を感じさせる刺激臭がありますね。中に含まれるトルエンやキシレン、酢酸ビニールなどの化学物質は吐き気、めまい、さらには人の中枢神経を麻痺させる恐れがあるのです。 こんなおそろしい塗料を使うリスクは、なるべく避けたいものです。  最近ドイツで、石油系溶剤や合成顔料をいっさい使わない100%天然の顔料や、自然柚物油をベースにした木材用無公害塗料が開発され、話題を集めています。やがて、わが国でも天然の素材を利用した塗料が続々と誕生することでしょう。  しかし、日本には古くからすぐれた天然の塗料があることをご存じでしょうか。  漆、柿渋、弁柄・・・。わが国の文化を彩った伝統的な塗料が、現代の住宅材料として再びクローズアップされているようです。  漆は日本最古の塗料で、食器や武具などにその魅力を発揮してきました。建築用にも多用され、寺社仏閣はもとより旧家の板戸などにも使われました。永い時を経ても、ていねいに塗りあげられた伝統工芸の美しさは、今でも色褪せることなく残っています。手間もお金もかかるぜいたくな漆塗りは、今日の建築塗装には不向きともいわれていますが「拭き漆仕上げ」という工法に可能性が託されています。  弁柄は京都の町屋で見かける「弁柄格子」でおなじみです。菜種油に油煙と弁柄という鉄分を混ぜてつくった塗料で、防腐効果も高いといわれます。  また、昔から板塀などに塗られていた柿渋も見直されるべきすぐれた天然の塗料です。  どうしても塗料を塗って床や柱をキズから守りたいという向きには、調湿機能を残した天然系塗料を塗ったあと、亜麻仁油ワニスや蜜ろうワックスで仕上げる方法をお奨めします。  昔はワックスなんてありませんでしたから、木のツヤを出すために、おからやぬかやクルミを布袋に入れたもので磨きあげました。古い民家の柱や床がツヤツヤと黒光りしているのは、これらの天然ワックスがなせる技だったのです。  危険なものがあふれかえっている今、健康によいものを探っていくと、必ずといってよいほど自然のものにたどり着きます。身近な素材をじょうずに生活の中に取り入れた先人の知恵には、改めて敬服の念を抱かずにはいられません。

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