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インフレ経済という敵

2018年8月16日「木曜日」更新の日記

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一方、借家人の方は、ゆうゆうと旧家賃額を供託していればよいのです。 賃貸人側、つまり家主さんの側の賃料増額請求権の行使は不当に阻害されている、というのはこの点です。 そして、裁判所は、大幅値上げは認めません。 地価の動向、ひいては経済の実態に明るい鑑定人 が、多少家主さん側の請求額に近い賃料額を出しても、裁判官は、これに大ナタを振るいます。 周辺 の実際の賃料の動向が、その根拠です。 もともと鑑定人の評価した賃料は、控え目です。 それが、裁 判所でカットされるのが実情です。 理由は、地価の高騰などに、家賃は追随する必要はない、ということです。 家賃値上げの可否を民 事訴訟できめること自体が、ほんとうは不適当なのです。 増改築の許可、借地権譲渡の許可を求める裁判が「非訟事件」としてかんたんな手続きでなさ れるのと比較すると、家賃値上げ請求を訴訟でする のは、均衡を失っています。 「ほんとうは、家賃の増額請求も、訴訟よりも非訟 事件で、かんたんに、やすい費用で、半年ぐらいの 間で結論が出るようにするべきです。 明渡しなどと違って、家賃額の変更は借家人に致命的な打撃を与えるものではありません。法律問題というより、 経済問題です。 手間ヒマのかかる証拠調べや鑑定などは不必要です。 前にのべた借地非訟事件の、手 続きのかんべんさ、費用の低廉さ、結論のすみやかさが、家賃値上げ紛争にも取り上げられるべきで しょう。 インフレや地価の騰貴に弱い家主の保護には、少なくとも家賃値上げ請求手続きの改正が必 要ですが、現状ではこの改善は望むべくもありません。 借家法の制約の中で、家主さんはどうやって権利を守り、失地を回復し、ひいては収入をふやして いくか、それが今日の課題です。 本書は、家主さんのふところを肥やそうというのではありません。 家主さんが、いったん家を貸したあとは、だんだんと権利をやせ細らされ、収入の名目額は減らない でも、実質的な所得が減少して、窮地に追いこまれるのを、防ぐ方法を考えた結果、生まれたもので す。 あくまでも、公平という観点からみて、不当に不利益な立場にある家主さんのために書かれたも のです。 家主の戦いは、個々の借家人との戦いというよりも、インフレ経済という敵、借家法という 契約の自由を破った変則的・不公平な法律、そして保守的な判断の遅い裁判所との戦いです。

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